新着情報/コラム

column

コラム「坤輿万国全図」地下水・土壌汚染とその防止対策に関する研究集会(LFP法とCO2排出量)

2022.6.29

3年ぶりに対面で開催されたこの研究集会に、主題「プリーツフィルター・機能性粉体法(LFP法)による難分解性有機化合物の除去」、副題「- PFAS, TOC, 1,4-ジオキサン等 汚染地下水・工場排水処理 -」の発表で参加することができた。水処理で話題を創る、私には初めての試みであった。この課題を授けてくださった方々にお礼を申し上げたい。

発表ポスターの中で従来手法(粒状活性炭処理、膜分離処理など)との比較で用いた指標の一つがCO排出量である(図1)。LFP法の排出量は地下水処理の実案件での装置仕様を基に算出した。主なCO排出源は電気であるが、使用する活性炭量が従来方法に比べて少ないこと、さらに活性炭の材質がヤシ殻炭であることが少ない排出量の要因である。対する従来方法は廃棄物最終処分場の浸出水対策用の処理と思われ条件の違いはある。一概には比較できないかもしれないが、LFP法は従来方法に比べて概ね1/5の排出量となった。今後、LFP法の電力消費量やCO排出量の精度を高めたい。また、今回は主にPFAS除去をテーマとした発表であったが、次回は排水中の窒素・燐の除去と再利用についてまとめることを目標にしたい。

少し古い話であるが2019年から2020年に、中国蘇州にある日系の工場顧客から「排水ゼロとはどんな水処理になるのか? 排水中の窒素・燐の削減はできるか?」との問い合わせを受けたことがある。当時の私には答えるソリューションは持っていなかった。しかし、コロナ禍での縁があり、排水ゼロ・窒素燐の回収資源化は今私が取り組んでいる仕事である。

蘇州市の西方には太湖(面積は2,250平方km、琵琶湖の約3.4倍)がある。中国政府の国家重点風景名勝区に指定されている景勝地であり、周辺住民約3000万人の飲料水源となっている。しかしながら、古くから水質汚染が問題となっており、特に排水中のCOD、アンモニア態窒素、全窒素、全燐および重金属に対して最も厳しい水質環境規制が敷かれている地域である。今年6月江蘇省の地方標準案(水および大気汚染物排出規制要求)が公開されているが(表1)、日本の排水基準と比べて、アンモニア態窒素や全燐の基準値は日本の1/10以下である。LFP法は工場の排水処理のみならず集中型排水処理場にも有効な水処理法と期待している。

図1 CO2排出量( kg/㎥ ) LFP法と従来方法1)との比較

LFP法の試算条件:30㎥/h処理、入口濃度PFOS+PFOA 200ng/L

LFP法のCO2排出量 合計 0.18kg/㎥(内訳 活性炭起源10g/㎥、電気起源 170g/㎥)

1) 津野洋,西村文武,高部祐剛,林佳史,谷井信夫,丸野紘史,高木明寛(2013):廃棄物埋立処分場におけるオンサイト型PFCsの除去・処理技術の開発-省資源、省エネルギー、省メンテナンスを考慮した実現可能な処理技術の選定と評価-,有機フッ素化合物の最終処分場における環境流出挙動の解明と対策技術に関する研究,平成24年度環境研究総合推進費補助金研究事業研究報告書 有機フッ素化合物の最終処分場における環境流出挙動の解明と対策技術に関する研究(平成25年3月),環境省,p.77-83.

表1 中国および日本の排水基準比較

日本 中国
江蘇省地方標準
名称 水質汚濁防止法により定められる排水基準(特定事業場に適用される基準)
1971年
江蘇省電気メッキ業主要汚染物排放標準(意見請求)
2022年(DB32XX/XXXXX/XXXX)
項目数 有害物質に係る排水基準28項目
一般項目(有害物質以外の項目)に係る排水基準15項目
水および大気汚染物排出規制要求
水汚染物排放濃度限値20項目
条件等 排水量50m3/日以上の特定事業所に適用される基準 電気メッキ企業、集中型排水処理施設を対象
太湖流域地区とその他地区に分けて排出規制要求
下記基準値の対象業種や地域 公共用水域排出 太湖流域地区
分類 直接排放 間接排放
主な項目の基準値 六価クロム化合物mg/L 六価クロムとして 0.5 0.1 0.1
COD mg/L 日間平均120 50
アンモニア態窒素mg/L アンモニア態窒素×0.4+亜硝酸性窒素+硝酸性窒素として 100 8
全窒素mg/L 窒素含有量日間平均60 15
全燐mg/L 燐含有量日間平均8 0.5

直接排放:工場が直接環境へ排出、間接排放:集中処理施設への排出

写真1 太湖の西岸に位置する宜興市(ぎこうし)から見た、太湖の夜景(2014年5月)。

写真2 左:太湖の南岸、江蘇省蘇州市七都鎮(2012年6月)。広すぎる太湖は画角に収まらない。右:湖畔のレストランでの郷土料理と地酒。紹興酒の産地・紹興に近いこともあり地酒は白酒ではなく紹興酒であった。料理は活小エビの踊り食い。アルコール度数50度の白酒に浸しただけの活エビ。淡水性のエビであるため勧められるも少量しか食べず。