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コラム「坤輿万国全図」VOCs排気対策と「重汚染天気重点業界緊急排出削減措置制定技術指針(2020年改訂版)」

2021.8.31

2021年8月号 VOCs排気対策と「重汚染天気重点業界緊急排出削減措置制定技術指針(2020年改訂版)」

7月号に続き、大気汚染防治に関する制度である「重汚染天気重点業界緊急排出削減措置制定技術指針(2020年改訂版)」から解説を始めたい。

「重汚染天気重点業界緊急排出削減措置制定技術指針(以下 当該指針)」とは、2020年6月、生態環境部弁公室が北京、天津、河北、山西、上海、浙江、江蘇、安徽、山東、河南、陝西の生態環境庁宛てに通知した工場の排気規制に関する文書である。39の業界を対象とし、業界ごとに績評価分級指標に基づいた排気対策の実績評価により企業をABCDの等級に分類し、等級別に差異化した重汚染天気時の排出削減措置の参考を示している。当該指針の公布を受け、江蘇省では2020年7月、省内の各行政区(南京市や蘇州市などの主な都市)宛に江蘇省版文書を通知していた。

過去に江蘇省では大気環境悪化に伴う生産制限規制として「江蘇省秋冬生産調整及び重汚染天気緊急管制停産減産免除管理方法試行(2018年10月と2019年1月)」が公表されていた。最近の環境政策は規制強化ばかりではなく、環境対応優良企業に対しては規制緩和(秋冬生産制限免除申請)の動きもある。秋冬生産制限免除申請で求める基本条件は以下の5条件であったが、江蘇省生態環境庁は39業界の制限免除申請の必須条件として当該指針のA級企業認定を追加している。

秋冬生産制限免除申請で求める基本的条件は以下の通りであり、企業が目指すべき排気対策が示されていると考える。

1)産業政策に合致し、生産技術、技術及び製品が「江蘇省産業構成調整制限、淘汰と禁止リスト(第一回)に含まれない。

2)前年度の環境信用評価の等級が緑色、藍色である。

3)規定どおりに排汚許可証(国務院発 〔2016〕81号の制度)を受領し、かつ、許可証の日常管理要求を規範的に実行できる。

4)大気汚染物質の排出が安定的に基準に適合であり、オンライン観測が規定どおりに実施され、排出データが正しく有効である。

(以上は2018年10月に示された項目、以下は2019年1月に追加された項目)

5)「有害物質排出量が安定的に削減され、同じ業界の他の企業に比べて、有害物質排出量が著しく少ない企業」である。

 

工業塗装業の績評価分級指標と排出削減措置内容を表1に示す。A級企業に認定されるためには、環境管理水準や使用原材料のVOCs含有量等の他、VOCs処理施設の除去効率95%以上がA級企業の差異化指標として示されている。大気重汚染時、A級企業に対する排出削減措置として実態に合わせた自主削減措置が示されている。企業はA級企業認定を目指したいところである。

しかしながら、VOCsの排気処理効率に関して、従来の粒状活性炭吸着装置の処理効率は一般的に80%未満と言われている。また、中国で多く用いられつつある濃縮・触媒燃焼装置では、筆者が「2019年第20回中国環境博覧会」での出展機器を調べたところこの方式での除去効率は最大で95%であった。安定的に除去効率95%達成するためには、さらなる装置の技術革新が必要なようである。

表1 工業塗装業の績評価分級指標と排出削減措置内容(簡略化して表記)

差異化指標\等級 A級企業 B級企業 C級企業 D級企業
績評価分級指標 原材料 1. 使用粉末塗料

2. 低揮発性有機化合物含有塗料製品技術要求GB/T38597-2020既定適合、低VOCs含有量塗料製品

1. 船舶塗料中有害物質制限量GB38269-2019、工業防護塗料中有害物質上限値GB30981-2020等に適合の水性、無溶剤、輻射固化塗料製品の使用

2. A級と同じ

1. 船舶塗料中有害物質制限量GB38269-2019、工業防護塗料中有害物質上限値GB30981-2020等の標準規定の塗料製品を使用 C級要求未達成
無組織排気 揮発性有機化合物無組織排放規制標準GB37822-2019の特別規制要求を満足

静電噴塗、自動噴塗、高圧無気塗布或いは高流低圧(HVLP)噴射機など高効率塗装技術を採用。手動空気噴塗技術使用不可 など

揮発性有機化合物無組織排放規制標準GB37822-2019の特別規制要求を満足
VOCs 処理施設への要求 処理効率95%以上

吸着濃縮+燃焼、燃焼等

処理効率85%以上

吸着濃縮+燃焼、燃焼等

処理効率80%以上

指定なし

C級要求未達成
TVOC排出上限値 40-50mg/m3 50-60mg/m3 60-70mg/m3 現行排出基準適合
環境管理水準 台帳記録

1.    生産施設運行管理情報(生産時間、運行負荷、生産品生産量等、塗料の密度、VOCs含有量、含水率(水性塗料)等観測報告のデータ)

2.    廃気汚染治理施設運行管理データ(燃焼室温度、冷却凝縮温度、濾過材料交換頻度、吸着剤交換頻度、触媒交換頻度)

3.    観測記録データ(主要汚染物排出口廃気排出記録(手動あるいはオンライン観測)等

4.    主要原材料消耗記録

5.    燃料(天然ガス)消費記録

A,B級要求中の少なくとも1,2,3を達成 C級要求未達成
その他 大気汚染自動観測未実施、排汚許可証規定の排出濃度あるいは排出量を超過した場合には、A、B級企業の認証不可。
排出削減措置

 

黄警報 実態に合わせた自主削減措置 大型運搬車の制限 溶剤型噴霧等設備減産30% 溶剤型噴霧等設備生産停止
橙警報 溶剤型噴霧等設備減産30% 設備減産60%
赤警報 設備生産停止 設備生産停止

 

(例)北京市の大気重汚染時警報発表基準と主な応急措置(2018 年10月19日発表の情報より)

警報色 警報の発表基準
全市で予測されるAQI値200以上(重度汚染)が4日(96 時間)以上継続し、かつAQI値300以上(厳重汚染)が2日(48 時間)以上継続する場合。又は全市で予測されるAQI値が500に達する場合。
全市で予測されるAQI値 200以上(重度汚染)が3日(72 時間)以上継続し、かつ上級の警報条件に至らない場合
黄色 全市で予測されるAQI値 200以上(重度汚染)が2日(48 時間)以上継続し、かつ上級の警報条件に至らない場合

(注)上記の AQI 値は日平均値。

 

なぜ、ここまで高いハードルのVOCs排出削減規制が求められているのか?

VOCsは燃料燃焼によって排出される硫黄酸化物(SOx)や窒素酸化物(NOx)とともに、大気中で光やオゾンと反応してPM2.5変化するものがあると言われている。青空防衛戦に勝利する3カ年行動計画(2018年)では、PM2.5等削減の数値目標達成のために、VOCs排出削減が示されている。

図1を見ていただきたい。江蘇省1省だけで日本の約2.7倍のVOCsを排出(2015年データ)している。聞くところによると生態環境庁は行政区毎に排出枠をもうけたVOCs削減規制を行なっている。江蘇省では各行政区に対して地域の実情に合わせて2020年までに2015年比18%から22%の排出削減を割り当てている。VOCs排出量の削減と規制の強化は今後も継続されると思われる。A級企業の認定を得るためにはより一層のVOCs使用量の削減とVOCs排気処理装置の能力向上が求められることになる。

出典:中国のデータ;江蘇省揮発性有機物汚染治理特定項目行動実施方案(2017年)。日本のデータ;揮発性有機化合物(VOC)排出インベントリについて 、平成29年3月揮発性有機化合物(VOC)排出インベントリ検討会(環境省)

図1 VOCs排出量(2015年)、日本と中国江蘇省との比較   図2 江蘇省の各都市別のVOCs排出総量(2015年)

弊社はVOCs排気対策のソリューションとして、VOCs除去率99%のFP法を用意している。この装置はプリーツフィツターと粉体吸着体(VOCs対策の場合は粉末活性炭)とを組み合わせた装置で、「FP法(フルター パウダー法)」と呼んでいる。

活性炭はVOCsやPFOS等の化学物質の除去に効果的な吸着剤であることがすでに知られている。また、以下の事実から、活性炭は小粒径化することで吸着能力が向上する。

①粒子サイズが小さいほど、比表面積が大きくなり、また、粒子内拡散距離が短くなることから、吸着速度や吸着容量が向上する。

②粒子(吸着剤)が互いに近いほど、粒子間の境界層が薄くなり、汚染物質(吸着物)から吸着剤への経路が短くなる。

FP法は吸着能力が向上する粉末活性炭を使用し、粉末活性炭の再生・再使用及びVOCsの触媒燃焼又は液化回収ができる排気処理装置である。

なお、粉末活性炭は水中のPFOSやVOCs 、トリハロメタン(THM)、TOC、COD、BOD、DOC、フミン酸、薬品残渣、臭気、色の除去にも有効である。排水処理対策のソリューションには「ECOクリーンLFP(リキッド フィルター パウダー)」を用意している。これについては機会を改めて紹介したい。

写真1 7月号に引き続き、羊肉料理の話題を提供する。新疆ウィグル自治区ウルムチ市内の肉料理店。新鮮な羊肉が豪快に陳列されている。

写真2 ウルムチ市内 ウィグル料理の小店。店主は片言の日本語で挨拶してくれた記憶がある。

写真3 同店のウイグル料理 ポロ((手抓飯)ラム肉の炊き込みご飯)。私が日本人と知り、これと言って選んでくれた大ぶりの骨つき羊肉を乗せてくれた。

写真4 鄯善市内のウィグル料理店。ここでは、特色拌麺(羊肉と野菜、トマト味を具にした和え麺。具を麺の上にかけ混ぜ合わせてから食べる)を昼食としていただいた。

写真5 上海での羊料理、火鍋。涮羊肉(羊のしゃぶしゃぶ)とも呼ばれる。茹でて、多種・たっぷりの薬味をつけていただく。火元は炭火、左写真に写っている男性店員が炭火で沸騰している鍋をテーブルまで持ってくる。少し危険な感じ。四角いトレイの肉が羊肉500g(1斤 中国肉類の基本単位、一人前)。スープには麻辣味など様々な種類があるが、私が選ぶのはキノコスープ。中写真ではスープに椎茸、榎茸、ネギ、クコの実が浮いている。羊肉の他に、牛肉、野菜、キノコ、海鮮など、食材は豊かである。