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コラム「坤輿万国全図」“上海合弁会社SHART” と沖縄の湧き水 “チュンナーガー”

2023.9.6

 上海合弁会社SHART(シャート)とは、流機エンジニアリングと日系企業計6社で設立した安全・環境・SGDsに関わるソリューションを提供する企業である。2023年3月、上海に設立した。沖縄の湧き水について語るつもりであったが、今後のコラム展開の都合上、先ず紹介したい。

 SHARTの事業目的は、「海外に進出している日系工場が、エネルギーコストを削減し、安心して本業で競争できる環境創りを行う。
各国(中国、東南・南アジア)の法制度・実情に合わせた、安全・安心と環境の維持、および、SDGs貢献に対するソリューションサービスを展開する。

 さらに、出資会社の海外でのブランド力向上にも貢献する」ことにある。
コアとなる技術サービスは出資会社の商品とし、一社でその国の制度に基づき、安全・環境・SDGsに関するリスクや改善活動に対するサービスを展開できる企業である(図1参照)。

図1 SHARTの事業領域

図1 SHARTの事業領域

 合弁会社設立の構想は、SHART代表松井一が立ち上げた安全・環境に関わる異業種勉強会(名称リスクコンソーシアム)に始まる。私は2017年夏、第二回目からの参加である。
昼の各社技術発表と夜の羊会(羊串焼きを食べる会)を重ねながら会社設立の夢、段取りを語り合っていた。2020年1月、突然のコロナ禍で海外との往来が制限され、メンバーも日中に分かれることになった。
合弁会社設立は頓挫したかに思えたが、それから3年2ヶ月後、出資会社の構成を変え当時のメンバー7名のうち4名が所属を変えながらも、設立に至った。

 今後SHARTは、流機の環境ソリューションを海外で展開する拠点となる。

上海合弁会社SHART

SHART
合弁会社の略称の由来:
Seiko, Hatsuta, Aaic, Ryuki, Tsuneishi 日系5社の頭文字

中国名(正式名称):瑟尔安全系统工程 (上海) 有限公司
(カタカナ発音)シャール アンチェン シートン ゴンチェン シャンハイ ヨウシエン ゴンスー
英語名:Global Safety Consortium Consulting (Shanghai)

写真1

図1 SHARTの事業領域

 

左:SHARTが入るビル。日系企業オフィスや大型ショッピングモールが集まる地域、手前の低層ビルは中国都市部でよく見かける一般居住用のマンションである。
オフィス住所:中国上海市長寧区遵义路107号安泰大厦 1402室 電話+ 86-21-6127-3900
中:オフィス入口とロゴ
右:上海市長寧区遵义路の羊串焼き店、3年半ぶりのリアル羊会である。

写真2 “水ラボ”試験室

「水ラボ」試験室

 

水処理装置設計には対象原水を用いた水処理試験が必要である。今回、SHARTの外注会社の中に、ECOクリーンLFP用の試験機能を整備した。
左:試験室とメンバー
中・右:展示会でお馴染みの、LFP技術を用いた青インク除去試験を再現した。

 今年6月、ちょうど沖縄全戦没者追悼式の前日、沖縄の湧き水“チュンナーガー”、を訪問する機会を得た。
チュンナガーは沖縄県宜野湾市喜友名、県道81号線から斜面(段丘崖)を下ったところにある(図2参照)。同地施設は重要文化財に指定されており、国指定文化財等データベースによると、重文指定年月日:1992.08.10(平成4.08.10)、構造および形式等:石造井泉、(男用・入口奥)うふがー、(女用・入口手前)かーぐゎー、周囲水路、石垣、進入路(120.7m)よりなる、(建造)西暦:1751-1829年(江戸後期)と示されている。

 県道81号線沿いに喜友名遺跡群の説明看板(写真3)があった。この看板中の解説で“喜友名泉(チュンナーガー)”は、「現在でも簡易水道源として喜友名の人々に利用されています。歩道にある“せせらぎ”(写真4)はチュンナーガーの湧き水が流され、またチュンナーガーにもどしています。 」と示されている。今でも地域生活に欠かせない湧き水である。

写真3

坤輿万国全図沖縄の湧き水 “チュンナーガー”写真3

 

左:チュンナガーを解説する、県道沿いの看板、右:看板から北西側に碧い海がひらけている。手前の森に中にチュンナガーがある。

写真4

坤輿万国全図沖縄の湧き水 “チュンナーガー”写真4

 

左:歩道にある“せせらぎ”(正面)とチュンナガーへの入口、中:琉歌が刻まれている碑、右:県道からチュンナガーへ下る階段

 チュンナガーに向かう降り口に、喜友名泉にまつわる琉歌が刻まれている碑(写真4中)がある。
碑文には「ちゅんな村嫁や ないぶさや 足が ちゅんなかーびらぬ 坂の高さ」と刻まれ、「かーびら(坂道)を上り下りして水汲みをする辛さを詠んだものであり、古くから村人の間で歌い継がれてきた歌です」と解説されている。水汲みの苦労を負いながらも生活用水のために貴重な恵みの水源であったらしい。

 チュンナガーへは、県道から石造りの階段を下る。途中ゲートがあり鍵がけかけられている。見学希望日の1週間前までに宜野湾市教育委員会文化課または喜友名区自治会までお問合せが必要とのことである。
ゲートを過ぎると幅5mあまりのゴツゴツした下り坂道が続く(写真5左)。湧き水まで120mあまりである。足裏の感触から地面は琉球石灰岩の石畳であろうか。左右にフェンスがある。外側は米軍敷地であろうか。頭上には樹木が覆い被さっており、念の為、ハブよけのためつば広帽子が良さそうである。

写真5

坤輿万国全図沖縄の湧き水 “チュンナーガー”写真5

 

左:ゲート先の通路。中:途中の広場、右:通路で最も狭い箇所、この先はひらける。

 ほどなく、木漏れ日あふれるひらけた場所に出る。ハブの懸念が薄れ、ちょっとピクニック気分。さらに下ると、通路は狭まった。幅1.2mほどであろうか。最も通路幅が狭い箇所である。ただし、足元は石畳であり、歩く上では安定感ある道である。この先、広場としてひらける。2箇所の石造りの湧き水施設があった(写真6)。向かって右側(写真中央)が“かーぐゎー”で、女性や子どもが飲料水を汲みやすいように樋口が設けられ、水浴びだけでなく野菜洗いや洗濯にも使われていた。向かって左側は“うふがー”ではワカミジ(若水)やウブミジ(産水)が汲まれましたが、普段は田畑での作業後に男性や家畜が水を浴びる場所であったため広く造られているらしい。

 この先はなだらかな斜面から平坦な地形となっている。チュンナガーは琉球石灰岩が作る段丘崖と下位の段丘面との地形変換点に湧き出ている泉である。図2の地質図を参照していただきたい。

 これら施設の他に作りの新しい建屋がある。地域の簡易水道へ湧き水を汲み上げるポンプ施設である。現在も簡易水道水源として生活用水を供給し続けており、地域の方が毎日点検を行なっている。手入れの行き届いた一帯は、沖縄の湧き水文化を感じる気持ちの良い緑地空間となっていた。

 この場所には、聞くところによると過去にはアヒル(写真7)が二羽棲みついていたそうである。今回、写真には写っていないが、一羽が観察するように遠巻きに私たちを眺めていた。

写真6 チュンナガー全景、右奥が入口、左湧き水:(男用)“うふがー”、右中央:湧き水(女用)“かーぐゎー”

坤輿万国全図沖縄の湧き水 “チュンナーガー”写真6
写真7 “かーぐゎー”とアヒル

坤輿万国全図沖縄の湧き水 “チュンナーガー”写真7
図2 チュンナガーと周辺の地質・地形

坤輿万国全図沖縄の湧き水 “チュンナーガー”図2

山内仁 株式会社流機エンジニアリング  アジアアフリカ環境ソリューション室 室長

山内仁の紹介

株式会社流機エンジニアリング  アジアアフリカ環境ソリューション室 室長

国立弘前大学教育学部卒業、同大学院理学研究科(地質)修了。理学修士。専攻:地質学、堆積学、教育学。技術士(応用理学部門(地質)、総合技術監理部門)。

大手コンサルに所属していた1994年ニカラグア国マナグア市上水道整備計画基本設計調査(JICA)、1998年汚染土壌等復旧工事総括監理業務(環境省)に従事。エンバイオ・グループに所属していた2012年から中国での土壌汚染対策に従事。近年は操業中工場向けに診断から様々な環境対策(排気・排水・土壌・廃棄物・水資源活用)を提供する中国環境リスクソリューションを構築する。2021年2月より、現職。