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コラム「坤輿万国全図」陸の豊かさを守る取り組み・中国水汚染防治法と排水基準

2021.6.22

コラム「坤輿万国全図(こんよばんこくぜんず)」2021年6月号「陸の豊かさを守る取り組み・中国水汚染防治法と排水基準」

上海蟹、この味を「一杯頂いただけで幸せになる味」と私は表現する。シーズンは秋、南京には蟹の産地「高淳」がある。ここではこの蟹を“高淳蟹”または養殖池である湖の名前をとり“固城湖蟹”と呼んでいる。固城湖の辺りの高淳老街(写真1)、蟹をはじめとした地元産の水産物や野菜を調理する料理店、地場農水産物の加工食品店が並んでいる。どれもが美味しそう。おすすめの食べ歩きスポットである。

 

中国では内水面の養殖が盛んである。高淳蟹の他、ザリガニ、淡水魚を食材とした料理が豊富である。調べてみると、中国の内水面養殖業生産量は日本の漁船魚業生産量の8.5倍である(図1参照、水産庁水産白書データより引用)。内水面の利用が拡大する一方で、陸域淡水生態系の維持のための規制強化が続いている。中国の水環境に関わる制度について解説しよう。

水環境の基本政策は水十条に示されている。水十条の政策・措置に基づき、法の改正や業種・地域別標準(日本でいう基準値)の整備が進められている。工業産業界に対してはCOD、アンモニア態窒素、全窒素、全燐及び重金属を対象とした地域や業種別の排出濃度上限値や排出総量の規制、工業用水リサイクルの強化が環境政策の流れである。巻末に中国の水関連政策と各法令・標準の概要を示す。

表1に日本及び中国の排水基準(中国は一部の基準を記載)示した。COD、アンモニア態窒素、全窒素及び全燐の基準値を見ていただきたい。(中国)汚水総合排放標準(GB 8978-1996)の値で既に日本の排水基準より厳しい値であるが、さらに、重点地域や業種に対しては近年標準が改正されより厳しい値になっている。新たな標準に廃水を適合させるためには、製造プロセスでの汚濁物質物の排出削減とともに廃水処理設備の能力向上が求められるはずである。

廃水処理設備は、廃水の性質(量・成分・濃度など)及び処理水質目標に応じて適する処理法・工程を複数組合せて構成しなければならない(表2参照)。しかも、フットプリント・薬剤使用量・発生汚泥量・処理コストや消費エネルギー量をより削減し、処理水は再利用もできることが求められている。

弊社は、お客様の課題に合わせた最適解決策を提案することができる。相談いただけたら幸いである。

表1 日本及び中国の排水基準比較

日本 中国 (基準の一部)
名称 水質汚濁防止法により定められる排水基準(特定事業場に適用される基準)1971年 汚水総合排放標準

(GB 8978-1996)

江蘇省地方標準、太湖地区城鎮(町)汚水処理場及び重点工業業界水汚染物排放限値DB32/1072-2018 食品加工制造業水汚染物排放標準(意見請求)2021年(GB□□□□-20□□) 電子工業水汚染物排放標準(GB 39731-2020) 紡績染色加工業水汚染物排放標(GB 4287-2012)
項目数 有害物質に係る排水基準28項目

一般項目(有害物質以外の項目)に係る排水基準15項目

第一類汚染物13項目

第二類汚染物56項目(1998年以降建設工場)

4項目 水汚染物排放濃度限値

10項目

水汚染物排放限値

21項目+総合毒性管制項目

新建設企業水汚染物排放濃度限値及び単位産品基準排水量

13項目

水汚染物特別排放限値

13項目

条件等 排水量50m3/日以上の特定事業所に適用される基準

公共用水域排出

業種別基準値 紡績染色業、化学工業、製紙業、鉄鋼業、鍍金工業、食品工業を対象

太湖流域一、二級保護区内主要汚染物排放限値(指定業種で同一基準)と業種別基準値

食品加工製造業を対象 電子工業を対象

生産物別基準

紡績染色加工業を対象
単位産品基準排水量m3/t産品 なし 部分業種で有り なし 有り 有り 有り
下記基準値の

対象

その他業種の基準値 紡績染色業 最も厳しい

水汚染物特別排放限値

分類 公共用水域排出 一級標準 二級標準 三級標準 直接排放 間接排放 直接排放 間接排放 直接排放 間接排放
主な

項目

基準値

六価クロム化合物mg/L 六価クロムとして 0.5 0.5 0.2 0.2 不検出 不検出
トルエン 0.1 0.2 0.5
COD mg/L 日間平均

120

100 150 500 60 100/150 500 100 500 60 80
アンモニア態窒素mg/L アンモニア態窒素×0.4+亜硝酸性窒素+硝酸性窒素として 100 15 25 5 15 45 25 45 8 10
全窒素mg/L 窒素含有量日間平均60 12 25 70 35 70 12 15
全燐

mg/L

燐含有量日間平均

8

0.5 1.0 0.5 1.0/2.0 8.0 1.0 8.0 0.5 0.5

単位産品基準排水量m3/t産品:水質汚濁物質の排出濃度を確認するための生産単位製品の排水量の上限。

一級標準:Ⅲ類水域(概ね日本の河川湖沼はこれ以上)とⅡ類海域へ排出する廃水の基準、二級標準:Ⅳ類・Ⅴ類水域とⅢ類海域へ排出する廃水の基準、三級標準:廃水処理施設へ排出される排水の基準

直接排放:工場が直接環境へ排出、間接排放:集中処理施設への排出

表2 廃水処理のプロセス

工程 主な役割や従来処理法 弊社技術
装置 特徴 処理対象
第一工程

前処理

雑物の除去

沈殿分離、スクリーンなど

色度 悪臭

殺菌

除菌

重金属 VOC COD

窒素

NH3

PFAS 水循環
第二工程

本処理

沈殿、濾過、活性汚泥法、メタン発酵処理法、凝集沈殿法など ECOクリーン ①精密ろ過膜(MF)領域のろ過装置、大腸菌、赤痢菌、藻類等の微粒子のろ過に適す

②従来の凝集沈殿方式に比べて処理工程を大幅に省略できフットプリントは10分の1

③薬剤量は10分の1、発生汚泥量の減少

第三工程

高度処理

さらに浄化する場合

膜分離、イオン交換法、物理吸着、酸化、生物学的処理法など

LFP法(Liquid filter powder法) ①フィルター+パウダー吸着体による汚濁物質除去

②処理対象に応じてパウダーを選択

③粒状活性炭に比べて吸着体使用量は1/10

オゾン法

OミクロンⅢ世

①水中に長時間滞留する径40~60µmに集中したオゾンマイクロバブルが1ccあたり383万個発生、オゾンは水中に長時間滞留し効果的に有機物を酸化分解

②オゾン消費量を削減

後処理工程 汚泥の脱水・固化、減量化など プリーツ脱水

巻末資料 中国の水関連政策と法令・標準

  • 水十条「水汚染防止行動計画」(2015年4月)

「2020年までに、長江・黄河・珠江・松花江・淮河・海河・遼河の7大重点流域水質「優良(Ⅲ類以上)」割合を全体の70%以上、2030年、同75%以上に向上」など主要指標と指標達成のための10か条の政策238項目の措置が示されている基本政策。工業産業界や養殖業に対する政策は以下の通り。

✔十大重点業界を指定:製紙、コークス化、窒素肥料、非鉄金属、印刷・染色、農業・副食品加工、原薬製造、皮革なめし、農薬、電気めっき

✔工業用水リサイクルを強化

✔用水総量の規制、節水:全国用水総量規制6,700億m3以内。用水総量規制指標に達した地域では、節水施設の三同時制度(主体施設と同時設計・施工・運転)の実施、工場の新建設・改造・拡張の際には業界先進水準を達成、用水増工場の新設認可の一時停止

✔汚染物質の排出標準を策定・改正、地方自治体は国の標準よりも厳しい地方水質汚濁物質排出標準を策定可能

✔汚染物総量排出規制(全窒素、全燐、重金属等汚染物)を強化

✔COD、アンモニア態窒素、全燐、重金属、および人間の健康に影響を与えるその他の汚染物質を対象に対策、富栄養湖や貯水池に流入する河川は全窒素排出規制を実施

✔養殖制限区域の設定、人工配合飼料の推進、抗生物質や化学物質の使用規制

  • 環境保護法(1989年公布、2014年4月24日改正・2015年1月1日施行)

日本でいう環境基本法。政策の方向性や実効性の向上策を示している。2014年改正による、罰則の強化、環境保護部門の権限と責任の強化は大気、水、土壌地下水の各法令に反映されている。

  • 水汚染防治法(1984年5月公布、2017年2月改正・2018年1月施行)

日本でいう水質汚濁防止法。水質汚染の定義、監督管理、防止処理措置、飲用水水源等の水域に対する保護、法的責任等の内容につき規定を行っている。

  • 排放標準

日本でいう排水基準。汚水総合排放標準(GB 8978-1996)の他に、近年、業種別・地域別に上乗せ標準が定められている(表1に中国標準の一部を表示)。

写真1 高淳老街、南京市中心部から南に80kmの所にある。“高淳蟹”の産地である。地下鉄も通じている。明代や清代の街並みが残されているという。通りには、地元水産物の料理店、水産物・農産物販売店、発酵食品や乾物などの加工食品店、子供向け玩具店、喫茶店などがある。

写真2 水産物料理店の店先。蟹は重さで料金が変わる。蟹は一対(公・母)(雄・雌)で買い求めると良い。割引価格であり、オスとメスとでは味わいが違う。一対40元から90元(600円から1400円)。合わせて、季節の地物野菜、他の魚を買い求め、調理してもらう。調理はお任せで良い。

写真3 左は調理前、右は調理後。高淳蟹の調理方法はそのまま蒸すだけ。少し強い酒とともに味わうと良い。写真の酒はアルコール度数35度の勁酒(ドン酒)。コップ一杯あまりの量で、これで終わると私にはちょうど良い。

写真4 高淳老街の通り。水産加工物などの土産店が並ぶ。職人の店で子供がガラス細工に関心を持ったようだ。

写真5 通りの中程にある喫茶店。2014年以降、南京には落ち着ける喫茶店が多くなった。大きめのコーヒーカップ、ゆったりソファー、パソコンや携帯に充電しながらそこに何時間いても一向に構わないのが中国喫茶店スタイル。普通にホットコーヒーを注文するときには、「美式咖啡,热的,中杯、不用牛奶(メイシーカフェ、リューダ、ゾンベイ、ブヨンニュウーネイ)」と語れば良い。「不用牛奶」を語らないとミルクコーヒーになる。大杯(大カップ)では多すぎるはず。駐在の頃から、落ち着いて文章を書くとき、このような空間に出向いていった。