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コラム「坤輿万国全図」品質管理の今昔

2021.3.18

コラム「坤輿万国全図(こんよばんこくぜんず)」2021年3月号・品質管理の今昔

「心ここに在らざれば、視れども見えず」、孔子の言行録を集めたといわれる『大学伝7章』に載る言葉である。私がこの言葉を知ったのは19歳の時、大学の地質学教室に配属された後に読んだ参考図書からである。学生の頃、フィールドでの露頭(写真1、自然の地層が露出している部分)観察実習では先生は何を視ていてかを私は観察していた。視るべきポイントが合っていれば、露頭の目視観察情報より太古からの地域の歴史を考察することができる。

私がこの言葉の真意を理解できているかどうかは未だに不明である。しかし、コロナ禍により海外との往復の自由が制限され現地へ行けないなか、中国日系工場の操業継続に関わる環境リスクを問診票とWebを用いたコミュニケーションにより診断する仕組みを創っている。当該国の環境制度や行政指導と工場操業の実態に対して視るポイントが適切であれば、遠隔地からでも工場の環境リスクを診断することが可能になると信じている。環境リスクを感じている方には中国からでも安心してお問い合わせをいただきたい。

さて、前回紹介した南京市の城壁、中華門の城壁レンガ(写真2)の中に製造者の氏名・住所が刻印されているものがある。聞くところによると当時の品質管理の仕組みでとのことである。品質に不備があった場合には族誅(罪を犯した者について、本人だけでなく一族についても処刑すること)の刑を科しレンガの品質を維持していた。なんとも恐ろしい品質管理制度である。レンガの品質を確保して、城門にはさまざまな防御の構造を配置(写真3)して、時の政権と南京の安全を守ろうとした。

2021年3月、排汚許可管理条例が施行される。この制度は大気水環境改善のために効果的に工場を管理監督するための台帳であって、現代の品質管理システムと理解している。排汚許可の制度は2008年水汚染防治法、2014年環境保護法及び2015年大気汚染防治法に実施せよと示されていた制度である。工場は排汚許可証を申請・取得する。既存の工場に対しては2020年まで取得が義務付けられていた。排汚許可証には工場が排出を許可されている大気・水汚染物等、以下の情報が記載されている。

  • 大気・水汚染物質排出情報(種類、許可排出濃度・排放速率・排出総量、排出口位置・番号、重汚染天気時の対応要求、大気無組織排放許可条件、大気排放総量許可量)
  • 自主観測要求(場所、観測対象、自動・手動、頻度)
  • 法遵守報告要求
  • 情報公開要求
  • 環境管理台帳記録要求(企業基本情報、観測記録、その他環境管理情報・固体廃棄物収集処分情報等、生産施設運行管理情報、汚染防治施設運行管理情報)
  • その他許可内容(騒音排出情報等)

これらの情報は建設項目環境影響評価報告書にもその多くが記載されている。しかしながら、改めて許可や規制内容を整理し、現在の制度に合わせた追加要求事項を示している。また、同情報は「全国排汚許可証管理情報システム」に登録され公開されている。工場の許可証編号や会社中国語名で検索することができる。先に示した問診票でもこの仕組みを活用することになる。

観測記録の整理に当たっては、排出総量や除去効率の算出等で注意が必要である。VOCsの排出総量や除去効率の求め方は、例えば「上海市工業企業揮発性有機物排放量通用計算方法(試行)2017年」等の各地の環境部門が発行している文書に示されている。ご不明の場合にはお問い合わせいただきたい。

 

文責:山内仁(所属:流機エンジニアリング中国環境ソリューション室、専門:地質学、堆積学、教育学、環境コンサル・エンジニアリング)

写真1 南京城の城壁・レンガと礫岩

南京城の城壁の一部を構成する石頭城(212年に孫権により築城)のレンガと段丘崖から成る城壁。露頭でもある。読者には何が見えるだろうか? 礫岩が長江の流れにより侵食されて形成された段丘崖にレンガを貼り付けた構造となっている。太古の昔、この辺りは礫が堆積する扇状地(陸域?)で、背後には礫を供給する山地・丘陵地形があったと想像する。

 

写真2 南京城中華門のレンガ

南京城・城壁(1386年に完工)のレンガには長い歴史の中で取り壊され復旧されたものと、明代のものがある。明代のレンガには製造者の氏名・住所が刻印されているものがある。聞けば刻印の目的は品質に不備があった場合に製造者を罰する(族誅)ためとのことである。当時の品質管理システムと理解した。

 

写真3 南京城中華門の防御構造

城壁の内部には三千人の兵士が潜む小部屋(ベンチの写真)がある。また、城門の扉(赤い提灯の写真)は二重なっていて外側は落とし扉となっている。敵兵が内側の扉に寄せている間に外側の扉を落とし、敵兵を閉じ込め殲滅する構造である。

山内仁の紹介

株式会社流機エンジニアリング  中国環境ソリューション室 室長

国立弘前大学教育学部卒業、同大学院理学研究科(地質)修了。理学修士。専攻:地質学、堆積学、教育学。技術士(応用理学部門(地質)、総合技術監理部門)。

大手コンサルに所属していた1994年ニカラグア国マナグア市上水道整備計画基本設計調査(JICA)、1998年汚染土壌等復旧工事総括監理業務(環境省)に従事。エンバイオ・グループに所属していた2012年から中国での土壌汚染対策に従事。近年は操業中工場向けに診断から様々な環境対策(排気・排水・土壌・廃棄物・水資源活用)を提供する中国環境リスクソリューションを構築する。2021年2月より、現職。