1.EUのPFAS対策 - Policyとアプローチ

EUのPFAS対策は、「科学者の哲学」を起点としています。
PFASの科学的リスク評価に基づき、広域に拡散し、環境中に残り続ける物質として捉え、予防的かつ包括的に管理する考え方が採られています。
この考え方は、PFAS汚染がすでに「惑星境界(自然の浄化能力)」を超えたという認識へとつながっています。
このため、個別物質ではなく、PFAS全体を対象とした制限が求められています。
このような背景のもと、EUでは政策・実証・技術開発が一体となった対策が進められています。

EUでは、2050年までに「健康な土壌(healthy soils)」の実現を目標に、土壌モニタリングおよび回復力に関する指令(SMRD:通称 Soil Monitoring Law)が施行されています。
背景には、EU域内の土壌の約60〜70%が劣化状態にあることや、土壌が地下水汚染の起点となる重要な環境基盤であるという認識があります。
このような背景のもと、PFASを含む汚染物質の管理・監視が強化されており、対象物質についてもPFAS全体を包括的に捉える方向が示されています。PFAS全体を対象とした管理の一環として、21種または43種の測定が定められています。

EUでは、PFASを個別物質ではなくグループとして管理する考え方が進んでおり、飲料水基準においてもSum of PFAS(Σ20 PFAS)として100 ng/Lが設定されています。
特に注目されるのがスウェーデンの基準で、Σ4 PFASに対して4 ng/Lという厳しい基準が導入されており、PFAS規制はより低濃度かつ広範囲な管理へと進んでいます。
こうした規制のもと、EUではPFAS対策において対象別の実証試験が進められています。
・「地下水浄化」を対象とした実証試験:LIFE SOuRCEプロジェクト
・「水道水処理」を対象とした実証試験:SID-Waterプロジェクト
・「地下水汚染源」を対象とした実証試験:PFClean-National PFAS Contaminated Siteプロジェクト
スウェーデン・ウプサラの埋立地における地下水を対象とした実証試験では、複数の技術を組み合わせた「Treatment train(トレイン方式処理)」が採用されています。
具体的には、泡分離(SAFF®)、電気化学酸化(EO)、植物浄化(PHYTO)を組み合わせ、それぞれの技術の特性を活かした処理が行われています。
・泡分離:長鎖PFASの高効率除去および濃縮
・電気化学酸化:濃縮されたPFASの分解
・植物浄化:短鎖PFASの吸収・除去
このように、各技術が役割を分担しながら連結されることで、単一技術では難しいPFASの効率的な除去が実現されています。これが「トレイン方式」の考え方です。
スウェーデンでは、水道水を対象としたPFAS浄化の実証試験が進められており、ナノろ過(NF)や逆浸透(RO)といった膜分離技術が用いられています。
処理された水は飲料水として供給される一方、膜処理により発生する濃縮水については、泡分離、イオン交換樹脂、電気化学酸化などの技術を組み合わせて処理が行われています。
さらに、処理後の水は水源へと戻され、人工涵養(MAR)を通じて自然の浄化作用も活用する設計となっています。
このように、EUでは水処理単体で完結させるのではなく、水循環全体を視野に入れた対策が進められています。

ドイツでは、PFASによる地下水汚染に対して、汚染源位置での浄化を目的とした実証試験が進められています。
本実証では、活性炭を用いた土壌中でのPFASの固定化に加え、複数の技術を組み合わせたアプローチが検討されています。
代表的な手法の一つが「ファンネル&ゲート(Funnel & Gate)」です。遮水壁を設置して地下水の流れを制御し、流れを一箇所に集約します。
そのゲート部分にPFAS吸着材を配置することで、地下水中のPFASを効率的に捕捉・除去する仕組みとなっています。
2.日本におけるMF膜・機能性粉体添着法(LFP法)による長期安定運転実証

当社のLFP法は、水処理だけでなく、PFASの気相処理にも適用可能な技術として展開しています。
水処理分野では、2023年の環境省実証試験を皮切りに、実機での連続運転による検証を重ねてきました。
処理性能の指標であるBV(Bed Volume)は、「吸着材が自らの体積の何倍の水を処理できるか」を示す指標で、BV10は除去率90%を維持した状態を意味します。2023年のBV10=45,000から、現在ではBV10=95,000以上まで性能が向上しており、長期安定運転の実現に向けた技術開発が進んでいます。
沖縄県宜野湾市の湧水公園「てぃーちがー」では、2023年4月よりPFAS浄化専用装置としてLFP法が連続稼働しています。湧水から検出されたPFOSおよびPFOAを、濃度の合算値50 ng/L以下まで低減し、放流を行っています。
1回の活性炭交換(60kg)で約13,000㎥の水処理が可能であり、長期間にわたり安定した処理性能を維持しています。
実機での継続運転を通じて、LFP法の高い除去性能と実用性が現場で実証されています。

LFP法は、フィルター表面に粉末活性炭を薄く積層させた「添着層」を形成し、その添着層でろ過・浄化を行うことでPFASを吸着・除去する方式です。
活性炭を粉体化したPAC(粉末活性炭)は、GAC(粒状活性炭)と比較して比表面積が大きく、吸着速度が速く、吸着容量も高いことが知られています。一方で、PACを50
mg/L以上連続投与する従来の混和法は、実規模の浄水場では費用対効果が低く、実用的ではありません。
LFP法は、このPACの高い吸着性能を活かしながら、膜表面に高密度で固定化することで、効率的かつ連続的なPFAS除去を実現する技術です。また、2026年春からは、より現場で扱いやすいカートリッジ型(写真右)の販売も開始しています。

DWTP(Drinking Water Treatment Plant:浄水場)において、PACを用いた従来の混和法では、100 mg/L程度の高いPAC投与量であれば高い除去率を維持することが可能です。一方で、50 mg/Lや20 mg/Lといった低いPAC投与量では、除去率が大きく低下し、実用上の課題となります。
その理由の一つは、PACが水中に希薄に分散することで、PFASと吸着材が十分に接触しにくくなることです。つまり、「出会わない」ため、吸着効率が下がります。
さらに、処理が進むにつれて原水中のPFAS濃度が低下すると、液相と固相の濃度勾配が小さくなり、物質移動の駆動力が弱まることで、PAC本来の吸着性能が発揮されにくくなります。
混和法でPACを50 mg/L投与した場合とLFP法を比較すると、LFP法ではPACの存在密度が約1万倍高くなります。これは、1cm³あたりに存在するPAC量の差によるものです。
この高密度な添着層によって、PFASと吸着材との接触が強制的かつ連続的に確保され、LFP法はPACの高い吸着性能を効率的かつ安定的に活かすことが可能になります。

1枚目は、GAC(粒状活性炭)とLFP法における破過挙動(BV)の比較です。横軸がBV、縦軸がPFASの除去率を示しています。
GACでは、比較的早い段階で除去率が90%を下回るのに対し、LFP法では90%以上の高い除去率を長期間維持しながら、大きなBVを達成しています。
2枚目は、PAC混和法とLFP法の比較です。横軸がBV、縦軸が除去率を示しており、PAC混和法ではBV5,000程度までは高い除去率を維持できるものの、それ以降は大きく低下します。
一方、LFP法ではBVを大きくしても除去率の低下が小さく、処理量が増えても安定した性能を維持できます。つまり、処理量(BV)に対する除去率の推移において、LFP法の優位性が明確に示されています。
これまでの比較から、LFP法は高い除去率を長期間維持しながら、大きなBVを達成できることが確認されています。
一方で、適用する水質によって最適な処理方法は異なります。横軸はPFAS濃度、縦軸は水質を示しており、上にいくほど清浄水、下にいくほど実排水のような夾雑物の多い水を表しています。LFP法は、DOCやSSなどの夾雑物が少ない地下水や表流水などに適しており、高い吸着性能を効果的に発揮します。一方、実排水のようにDOCやSSが多い水では、泡分離やPFAS専用凝集剤などの前処理を組み合わせることが重要になります。
ただし、これらの前処理だけでは基準適合まで到達しない場合も多く、最終的にはLFPを含めた複数技術の組み合わせ、すなわちTreatment Train(多段処理)の考え方による浄化設計が必要です。
PFAS対策の社会実装を進めるためには、水質と処理目標に応じた最適な技術の組み合わせを設計することが重要です。

現場での運用性をさらに高めるため、LFP法をより扱いやすくした「LFPカートリッジ」の開発を進めています。
2026年1月より東京都内で実証試験を開始しており、木質活性炭(汎用型活性炭)を用いた連続運転による性能評価を進めています。
>> PFAS浄化ユニット「LFPカートリッジ」詳細
さらに2026年4月以降は、高性能活性炭「トリポーラス™」との組み合わせによる実証を予定しています。
短鎖PFASを含む要検討項目8種類(PFHxS、PFBS、PFBA、PFPeA、PFHxA、PFHpA、PFNA、HFPO-DA)に対する除去性能を確認し、より高効率な浄化と長期安定運転を目指します。
>> Triporous™(トリポーラス) | ソニーグループポータル
まとめ:PFAS浄化技術に求めれらる次のステップ - 実フィールドで鍛えられるアプローチ
・EUでは、科学者の知見が政策形成に反映され、PFAS対策が体系的に進められています。2050年までに土壌を「健全な状態」へ回復させる長期目標のもと、PFAS規制と浄化技術の実装が進んでいます。
・実証試験では、原水水質に応じて複数技術を段階的に組み合わせるTreatment Train(多段処理)が重視されており、単一技術ではなく最適な浄化設計が求められています。
・LFP法においても、高濁度や高DOCなど厳しい条件では、前処理や他技術との組み合わせが不可欠です。PFAS浄化には、「除去」だけでなく「分解」まで含めた設計が重要になります。
・今後は、日本においても短鎖PFASや前駆体を含めた実フィールドでの実証を進め、技術高度化と運転コスト低減を両立させることが求められます。
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解説:山内 仁
山内 仁
株式会社流機エンジニアリング
アジアアフリカ環境ソリューション室 室長
国立弘前大学教育学部卒業、同大学院理学研究科(地質)修了。理学修士。専攻:地質学、堆積学、教育学。技術士(応用理学部門(地質)、総合技術監理部門)。
大手コンサルに所属していた1994年ニカラグア国マナグア市上水道整備計画基本設計調査(JICA)、1998年汚染土壌等復旧工事総括監理業務(環境省)に従事。エンバイオ・グループに所属していた2012年から中国での土壌汚染対策に従事。近年は操業中工場向けに診断から様々な環境対策(排気・排水・土壌・廃棄物・水資源活用)を提供する中国環境リスクソリューションを構築する。2021年2月より、現職。
